瓦の名は。第1話「運命」

第一話 運命

 

いつものようにはじまる朝。

ただ一つ違うのは、サイレンの音が鳴り響いている。

ふと目が開く。

そこにはいつもの見慣れた天井と景色。

英男
あれ、なんだろうなこの感覚。
英男
この重い絶望感に満ちているにもかかわらず、なにかときめくこの感覚。
英男
なつかしい。
英男
なにか大切な記憶を忘れてしまっている。
英男
かつて。
英男
ーーーーわからない。・・・・

 

そんな気持ちも一瞬で消え、またいつものように朝食を食べ会社へ向かう1日がはじまる。

 

山本英男 37歳

 

ぼくは、愛知県高浜市という名古屋の下の方の小さな田舎町で生まれた。

そうこのポスターのような港に隣接する人口数万人の小さな街。

poster01

高浜市は、三州瓦の生産で有名な街。いたるところに瓦の工場が点在する。そんな製造業の街に生まれたぼくは、ものを作るということが好きで小さい頃から工作が得意な少年だった。

ぼくは瓦工場を営む会社に生まれた次男。

そんなぼくが中学生になる頃だっただろうか。

 

中学生のある時

親父
おう、来たか、お前今日学校は行かんでいんか。ズル休みか 笑笑
英男
今日は文化祭の振替で休みなんだよ。
親父
そうか、ちょうどよかった今日社会見学で名古屋第三小学校の子供たちが来るからちょっと相手してくれよ。
英男
えっ ぼくが?・・・・
親父
任せたでな。英男  笑

英男は現場で働く父の様子を常に近くで見ていたので瓦の製造のことはよく知っていた。

先生
こんにちわ。今日はよろしくお願いします。

この瓦工場では小学校を対象に社会見学として工場見学を受け入れている。今日はそんな日だった。

親父
あっ先生 こんにちは。今日はわしに代わって息子の英男がお相手しますんでよろしくおねがします。
先生
あら、これはまたお若い講師の方ですね。笑笑 よろしくお願いしますね。
英男
こちらこそよろしくお願いします。それではみなさん。こちらへどうぞ、

 

実際の瓦工場はこんな感じ。
クリックすると記事に。

 

英男
以上で大体の説明を終わらせていただきます。
先生
今日はありがとうございました。
先生
じゃあ みなさん。英男先生に挨拶してバスに乗り込んでくださいね。

 

そんな時、一人の生徒がいないことに気づく・・・。

生徒1
先生、いく恵ちゃんがいません。・・・・
先生
えっ・・だれかいく恵ちゃん見なかった?
生徒2
そういえばさっきフラフラっと工場の中に入って行ったの見たけど・・・
先生
あら・・・どうしましょう。ちょっと私が探しに行ってきます。

先生はどこに探しに行けばいいかわからずあたふたする。

そんな時、隣にいた英男が一言。

英男
先生、工場内はちょっと入り組んでるのでぼくが探してきますよ。

と英男はその場を後にします。

 

しばらくしてあたりからなにか焦げ臭い匂いが漂ってくる。

先生
なんか少し焦げ臭いわね。・・・・
生徒1
うん なんか臭い。・・・・

 

しばらくして、異変に気づいた父親が遠くから駆け寄ってくる。

親父
大変だー。隣の工場から出火してこちらにも火が移ってる。みんな大至急避難してーーーー。
先生
えーーーーー。  わっ わかりました。みんな早く外に出て・・・・

 

この日は、奇しくも西高東低の冬型の気圧配置。

ここ高浜市にも冷たく強い北風が吹き荒れていた。

火はたちまち燃え広がり火災旋風をも引き起こして、またたくまに辺り一面を火の海にした。

 

親父
先生。もうみんな避難できましたか?
先生
あっ いく恵ちゃんが・・・・・。いく恵ちゃんが  まだ・・・・・・。それと 探しに行ってくれた息子さんは・・・・・・・・・・?
親父
えっっ・・・・ そういえば・・・・・英男の姿が・・・・・・。
親父
英男ーーーー。
先生
いく恵ちゃーーーーん

父親の顔は蒼白し、先生はその場に泣き崩れる。

 

そんな中、英男も現場の異常事態に気づいていた。奥の方からかすかに女の子の叫び声のようなものが聞こえたがとりあえずその場をあとにした。

 

引き返した英男は先生に。

英男
女の子はみつかりましたか?
先生
まだ、見つかってないんです。・・・
英男
じゃあ もしかして あの時の声は・・・・
英男
ぼく、心当たりが・・・。もう一回見てきます。
先生
だめよ・・・・・ もう火が・・・。
先生
あなたまで戻れなくなる・・・・
親父
無理だ、絶対無理だから・・・・・
英男
でも、あの場所知ってるのはぼくだけじゃないか!!
英男
今行かなかったら絶対助からないよ!!!

 

 

目の前に・・・・・・・

目の前に・・・・・・

消えかかっている命がある・・・・・・

そんなことを思った英男は、みんなの制止を振り払い無我夢中に火の方向に走り出していった。

rescue

 

 

しばらくたって、サイレンの音が鳴り響く。

騒然とした現場に消防士たちが駆けつけてきた。

消防士
もう 中には誰もいませんか?
親父
あっ 息子が 息子の英男が中に!!!
消防士
本当ですか?・・・・
消防士
おい。まだ中に人がいるぞー・・・・。
親父
消防士さん、すぐに救助に向かえますか?
消防士
この火じゃ 無理です。消火してからじゃないと救助に向かえません・・・・・。
親父
・・・・・・・・。

 

その頃英男は、燃えさかる炎の中、女の子を捜していた。

英男
おーーい。大丈夫かーーーーーー。今助けに行くからなーーーーーーー。

女の子にそこ声が届いていかどうかもわからないけど、英男は叫び続けた。

そんな時、かすかに聞こえた女の子の声

いく恵
助けて・・・・・。

声のする方向には、まだ火が回っていなかった。

なんとか女の子の元にたどり着いた英男は女の子を抱えるとすぐに周りを見渡した。

しかし、今通ってきた道にも火の手が及んで四方八方が火の海と化していた。

どうやら逃げ場がなくなっている。

この時、自分の人生がここで終わると悟ると、英男はその場に崩れた。

英男
もう。終わりかな・・・・。

 

そして、目を閉じたその瞬間。過去のいくつものの思い出が走馬灯のように頭に駆け巡る。

家族のこと。友達のこと。好きだったリカちゃんのこと。

わずか数秒目を閉じたその瞬間に・・・・。

いろんな思い出が・・・・・よみがえる。

 

 

そして、目開いた次の瞬間に目の前の炎の中に一筋の太陽の光が差し込んでいた。

その先にあったのは「保全するために火を落としていた休眠窯(かま)」だった。

瓦は非常に高温で焼くため、窯そのものは耐火レンガでできている。高温の火の熱を外に逃がさない設計になっているので逆に外からの熱にも耐えられる構造になっている。

英男
あっ あそこならしのげる。

英男は泣き崩れている女の子を抱え、まっしぐらに窯の中へと逃げ込んだ。

窯の中は案の定の外の熱気が遮断されてなんとか避難できる環境になっていた。

とりあえずの避難場所を確保した二人は、若干の落ち着きをとりもどした。

 

英男
とりあえず、ここに逃げ込めばしばらく安全だから、助けが来るのを待とうね。

と優しくいく恵に微笑みかける。

いく恵
うん。・・・

頬に伝った涙をそっと拭き、英男に微笑みかける。

英男は女の子の心を落ち着かせるのと自分自身を落ち着かせるために何気ない会話を持ちかけた。とにかく明るく、前向きなイメージで

 

そして英男は優しい笑顔で

英男
なにが好きなの? なんかおいしいもの食べてるとことか。好きな人とおしゃべりしてるとことか。将来の夢とか?
いく恵
うん、わたしね。設計士さんになりたいの。素敵なおうちを建ててみんなに喜んでもらえる設計士さん
いく恵
もちろん、わたしも素敵なおうちに住んでいいお嫁さんになって幸せに暮らしている。そんな大人になりたいんだ。
英男
へーーーー。そうなんだ。ぼくも家に関わる仕事をしたいと思ってるんだ。親父が「瓦屋さんって直接お客さんと関わることがないからお客さん喜んでる顔とかなかなか見れないから残念だって」いつも口癖のように言ってたから。
英男
だからぼくは自分が直接関わって家づくりをしたいなって。ずっと思ってた。
英男
そうだ・・・このまま生き延びることができたらいっしょにそんな仕事できるとなんかいいね。
英男
あっ ぼくの名前は山本。山本英男っていうんだ。
英男
えっと ・・・・ 名前は?
いく恵
平野  平野いく恵。
英男
それじゃあ。苗字の頭をとって 山平だね。
いく恵
山平 って  クスクス・・・・ なんか波平みたいだね。
英男
笑笑。

 

耐火レンガで造られた窯の中で暑さをしのぐことはできるが、周りが火に囲まれているために徐々に酸素濃度が低下してきた。

そして、二人の意識は徐々に薄れていく。

英男
なんか意識が・・・。いっ いく恵ちゃん。大丈夫・・。
いく恵
う・・・・・うん。

その時、英男は二人の約束を形として残すため何かないかを探していた。

そして、現場にあったのは割れた瓦と現場指示用に置かれていた油性のマジックを見つけた。

英男
二人の約束を忘れないためにこれに何か書こう。
英男
もしこのまま生き延びれてお互いが同じ夢を持ったまま再開できたら、いっしょに仕事しよう。

 

割れた瓦の破片のひとつに「山」、もう片方に「平」と書いてそれぞれポケットの中にしまい込んだ。

wareta-kawara

その後、酸素濃度が低下して二人は意識を失った。

sleep

 

そして、二人の呼吸はとまった・・・。

 

つづく・・・ 第二話 発進

 

 

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